「春昼〜はるひる」

 

初演 1998年10月 つくば カピオホール

泉鏡花の「春昼(しゅんちゅう)」「春昼後刻(しゅんちゅうごこく)」をモチーフに、非現実的な世界の恋を描きながら、表面的な明るさ、のどかさの裏に忍び寄る、深い恐怖を浮かび上がらせた作品。
ゆったりとした時間が流れるうららかな春の日。その春の昼のような明るさの中に、ふっと浮かびあがるとてつもないうら寂しさ・・・。
菜の花を想起させるまばゆい黄色の床に、透明な草むらを思わせるオブジェが 人工的にそよぐ。そののどかな空間に、顔を白塗りにした五人のパフォーマーが 独特なアンサンブルで幻想的な世界をつくり出す。 しかし、うららかな空気とは裏腹に、至る所で深い恐怖が顔を覗かせる。パフォーマーの身体は何かが憑依したように変容し、舞台上には異界が開かれていく。 実体と影のように寄り添う二人の女が語り始める言葉は台詞でありながら、古くからある音楽を思わせ、それは次第に意味を失い哀しさと静けさを湛えた歌へと高まっていく。
 夏の到来を予感させる雷鳴。春の終わりは夏の始まりと重なり合う。

刹那的な享楽を貪り尽くそうとでもするかのような現代の日本。「平成」日本の表面的な明るさ、のんきさとその裏にはらむ大きな不安、静かな恐怖を描き出す。

 

■作・演出:小池博史
■原作:泉鏡花「春昼」「春昼後刻」より
■音楽:菅谷昌弘
■楽曲演奏:ゴンチチ
■美術:小池博史、福島直美
■オブジェ:森脇裕之、田中真聡、福島直美、宮木亜弥
■スライド写真:佐藤勝治
■コスチュームデザイン:浜井弘治
■ライティングデザイン:関根有紀子
■サウンドデザイン:山本浩一
■サウンドオペレーター:江澤千香子
■舞台監督:大谷地力
■宣伝写真:斉藤文護
■宣伝美術:鈴木成一デザイン室


■出演 :小川摩利子,松島誠、白井さち子、三浦宏之、関口満紀枝